翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第8回 変調方式と波長分割多重

変調方式(modulation)

私たちの音声(原信号:Base Band Signal)などは電波に変換して、すぐに遠方には伝送できません。音声や映像(image)データをそのままの波形で伝送するのが、アナログベースバンド方式といいますが、波形が歪んでしまうので、近距離しか送れません。東京から大阪へ出張するのに徒歩で行くようなものです。やはり長距離では新幹線に乗って行くのが普通でしょう。この新幹線に乗るのが、原信号を搬送波(carrer wave)で変調するという過程です。通常アナログ方式では数百MHz、ディジタル方式では数Gbpsの搬送波が実用化されています。

一般的に変調方式には、アナログ方式とディジタル方式の2種類があります。アナログ方式には信号の振幅、周波数、位相の3要素を変化させてデータ信号を伝送します。データとしての波形は連続的に変化していきますから、ノイズの影響や歪みが発生すると受信側では正確なデータを復元(demonstration)できなくなります。長距離や多段の中継には向いていません。しかしながら、変復調回路(modem)は簡単な構造であり、信号帯域も狭いのが利点です。

ディジタル方式では、信号パルス(例:0と1)の有無でデータを伝送するので、歪みが多少入っても、またノイズに少しぐらい影響されても元のデータに戻すことができます。従って、中、遠距離に向いています。アナログとは逆に複雑な符号化(coding)および変復調回路が必要であり、コストがかかります。図8-1に各種変調方式の波形を示します。
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 図8-1 変調方式の波形
 
波長分割多重
波長分割多重(wavelength division multiplexing) 電気信号は周波数分割多重(frequency division multiplexing)といって、搬送波の周波数帯域を、例えば200~230MHzの帯域を、200~201、202~203、・・・というように、帯の幅を分割して、幾通りかに増加させて、その1つ1つにデータを乗せて伝送する方式が普及しています。皆さんがおなじみのCATVは、周波数多重された多チャンネル(multi-channel)で各家庭に、現在では40以上の種類の映像が送られてきます。

21世紀はFTTH(Fiber To The Home)から始まるといわれていますが、これは現在の多重の電気信号を、そのまま光伝送して各家庭に伝送することです。複雑な変復調機器なしで、同軸ケーブル光ファイバに変えるだけで、将来のシステム展望やコストを考えると、都合が良いのです。FTTHのアイディアの一例を図8-2に示します。現実的には、全国的な幹線の光ファイバ布設は容易ですが、各家庭への接続の部分でNTTが自社の既得権利をどのように開放してくれるかにかかっているでしょう。

電気信号が周波数分割多重するように、光信号でも波長分割多重をします。発光スペクトルの波長の広がりがオーバーラップしない範囲で、隣同士の波長を近づけることができます。1本のファイバで多数の信号を伝送しても、互いに影響はまったくないので、多重化が可能なのです。例えば、一つの信号をアナログ伝送、もう一つをディジタル伝送してもまったく関係ないのです。伝送方向が逆であっても同様です。ただ各波長ごとに光信号を区別するためには、波長選択を行う分波器(branching filter)が必要です。
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図8-2 FTTH
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。