翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第9回 光中継器と光アンプ

信号を遠くに伝送する場合、信号はそのままの大きさと形状では目的地には届きません。信号は必ず減衰するものです。私達が話している声は、少し離れた場所ではうまく聞き取れません。そのためにメガホンを使ったり、スピーカを使って大きな声にしています。同様な考え方が光信号が減衰し過ぎてしまうと、受信側ではその信号を取り出すことができません。信号が取り出せる限界の距離を「最大伝送距離」といいます。図9-1に光源出力と光ファイバ最大伝送距離の関係を示します。光源は例えばLEDやLDがあります。光源から光ファイバに出力を取り出すときの結合損や光コネクタとの接続損失(送信側と受信側の2箇所)で若干の損失があります。しかし大部分の損失は長距離の光ファイバからくるものです。実際には線路1kmあたりの損失が与えられます。マージンというのは、光アンプ(増幅器)により送受信間のパワーマージンが見込め、このマージンにより伝送損失を補償しようとするものです。従ってマージン分だけ最小受光可能パワーが低い設定でシステムが構築できます。

 

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図9-1 光ファイバ最大伝送距離

 

光アンプには二つの種類があります。半導体レーザ・アンプ(LD)とファイバアンプEDFA(Erbium-Doped Fiber Amplifier)です。LDアンプは、構造的にはレーザ・ダイオードそのものです。LDにはバイアス電流が流され、一方の端面から受光し、他端面から増幅された光信号が出力されます。LDは波長選択性はあまりないので、広範囲な波長を増幅できます。しかし欠点もあります。光ファイバとの結合損失が大きいことと、偏光依存性があるということです。

  一方、EDFAの原理は入射光による誘導放出を利用しています。少し難しいかもしれませんが、つまり、入射光は励起(energize)された電子が次々とエネルギをもらいます。この過程で光増幅が可能となります。LDと違って偏光依存性がありません。光ファイバの構造そのものであるため、接続が容易で、低損失です。励起光のパワーを大きくすれば、常に大きな増幅度になります。欠点としては、波長選択性が強くて、増幅される波長の幅が狭いことにあります。

  図9-2に光中継器のシステムの一例を示します。この中継器は、O→E、E→Oの変換の組み合わせですが、信号処理のしかたでいろいろなタイプに分類できます。図に示した例は、クロック回路による識別再生を行うもので、長距離伝送が可能な中継器です。PDはPhoto Diodeで、O→E、LEDはLight Emitting DiodeでE→Oです。増幅器は従来の電気のPCM伝送(Pulse Code Modulation;パルスコード変調方式)と同じ等価増幅器を使っています。この中継器は上記の光アンプと違い、光信号を一度電気に変換し、信号処理後または光信号に変換して送信するために、設備コストが高いのが欠点です。最近では、光アンプの高性能なタイプの開発が各社から報告されており、将来は光アンプの多用が期待できます

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図9-2 光中継器のシステム例

 

/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。