翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第10回 情報スーパーハイウエイとインターネット

20世紀の商品は鉄鋼、自動車、テレビ等でした。これらは21世紀においても市場経済の重要な品目としてとどまるでしょうが、産業をリードする牽引車とはならないでしょう。時代は変わっていきます。孫会長がいうには、世界市場を引っ張るのは「情報」という商品および「情報を仲介するインターネット関連のサービス」という商品だそうです。自動車やテレビは、米国や日本だけでなく、何処でも、誰でも作れる普通の商品に成り下がり、ネジや釘と同じような商品になるということです(ここだけは筆者の独断)。 インターネット産業は歴史的に見れば、まだ緒に就いたばかりです。これからどんな展開をしていくか、予測は難しいでしょう。100年先ではなく、2010年にはどうなっているのでしょうか。そして勝ち組に入るであろう人達は、2001年の今、何を勉強しているのでしょうか。

 

情報スーパーハイウエイ

これは米国の当時のゴア副大統領が提唱した高性能、高品質の通信に必要な高速ネットワークのことです。1993年1月に発足したクリントン政権は、アメリカ経済の再生と国際競争力の強化を目的として(ライバルは日本)、「情報スーパーハイウエイ」構想を提唱しました。具体的には情報通信インフラストラクチャの整備です。「全米の家庭、会社、学校、研究所、病院、図書館などをドア・ツー・ドアで結ぶ高速の情報ネットワークを整備し、情報へのアクセスを容易にする」というもの。ゴア副大統領の提案は、医療、教育、研究開発、電子図書館などでのコンピュータ利用に重点をおいており、2015年を目途にギガビット/秒レベルの高速光ファイバ・ネットワークを構築することです。AT&Tやその他民間の通信事業者が既に行ってきた幹線ルートを更に充実させ、光ケーブルを利用して高速光ネットワークを完成させることです。ちなみに日本では1999年暮に堺屋経済企画庁長官がこれに類した提案をしました。

ゴア副大統領は1993年9月には「NII」(National Information Infrastructure,国家情報インフラストラクチャ)を発表しました。NIIは数百のネットワーク群から構成され、それぞれは各企業が運営しますが、国家的にはこのネットワーク群を更に上位の巨大なネットワークで結合して、電話や双方向デジタル映像等をまんべんなく米国民に提供しようとするものです。

 
又彼は「GII」(Global Information Infrastructure,地球規模の情報インフラストラクチャ)を提案しています。この内容は、「情報スーパーハイウエイ」で地球を覆い、地球を1つのコミュニティとして全世界の人々が情報を共有し、対話できるようにしようとするものです。これらは2015年といわず、もっと早く実現するでしょう。

彼は2001年の大統領選には敗北しましたが、米国の産業界には多大な貢献をした副大統領として歴史に残るでしょう。日本にもこういう人材が出てきて欲しいものです。
 

ネットのルーツ

21世紀は数十億人の人々がインターネットを利用するといわれています。インターネットのルーツは1970年代に米国の国防総省高等研究計画局(DARPA)が作ったARPANETです。その後1986年に全米科学財団(NSF)が研究用ネットワークとしてNSFnetを構築し、ARPANETもこれに接続されました。NSFnetにはいろいろなネットワークが接続されていますが、最初の56ビット/秒から、現在では45ビット/秒の専用線が幹線となっています。
 
一般にコンピュータは機種ごとに独自のプロトコル(規約)があり、従って機種が違えば、インターネットを使ってコンピュータとコンピュータが通信を行うことはできません。例えば米国のコンピュータと日本のコンピュータでは、一般的には接続ができません。この違いを調整して、ネットワーク上で相互接続できるようにしたのがTCP/IPというプロトコルです。このTCP/IPの採用により、NSFnetは急速に拡大し、多くのユーザが加入しました。「インターネット」とは、このNSFnetを利用してTCP/IPというプロトコルを標準に使うネットワークの総称です。そして政府出資というしがらみをとり、誰でも自由にアクセスできるようにしたので、爆発的な普及となりました。
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。