翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第12回 光通信技術の応用例(光ディスク) 

現在では我々の生活はVD(Video Disc)やDAD(Digital Audio Disc)抜きでは考えられないようになってきているようです。レーザを一般家庭に持ち込んだのはVDです。特に日本においてはカラオケ装置として活躍しています。DADは別名CDですが、この名前の方が今では一般的になりました。

光ディスクの特徴をあげると、

  1. 高密度、大容量、取り外しが容易でランダムアクセスができる
  2. 長寿命、接触部分がないので摩耗がない
  3. 安価、半導体レーザの出現により小型化と高品質化が容易になり、コストダウンが可能となった
などです。

光ディスクの分類はつぎのようになります。
 
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図12-1 光ディスクの種類

 

コンパクトディスクは音楽をデジタルで記録した再生専用形であり、CD-ROMは辞書やデータベースに使われ、レーザディスクは音楽のみならず、映像の再生も行います。追記形はユーザが1度だけ書き換えることができます。書き換え形はイレイザブルタイプとして最近では急速な実用化がはかられています。 

 

図12‐2はディスクの拡大図です。図でわかるようにディスク上に凹凸をつけ、ピットの「ある」、「無し」で「0」、「1」を区別しているのです。原理そのものは原始的ですが、ピット間隔などを超微細にできるので、大容量の記録が可能なのです。ディスクはアルミニウムでできている反射板を両側より透明の塩化ビニールでサンドイッチ状にはさみこんだ構造をしています。レーザ・ビームは波長の数倍の大きさに絞られて図の1.6μmのピットの凹凸面に円形に照射されます。ピットの深さは0.14μm程度ですので、ピットのあるなしで反射する光の光路差ができます。すなわちピットからと、ピットの両側の部分からの反射が丁度打ち消しあって、光はゼロになるのです。ピットがない面からは、全部が反射となるので、信号を検出できるのです。
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図12-2 ディスクピット形状

 

おわりに

全12回にわたって連載してきましたが、私が常に言っているように、翻訳家になるためには「語学力」「技術的な知識」「日本語文章力」の3要素が必要です。これらがかみ合って、ウレル翻訳文が書けるようになるのです。頑張ってください!

 /エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊

この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。
 

第11回 光通信技術の応用例(計測編)

警報システム

オプトエレクトロニクスの応用例として我々の前に最初に登場したのが、赤外線を用いた警報システムです。赤外線は人間には見えませんから、不審者が侵入した場合、この赤外線が不審者に遮られて赤外線感知器が作動するシステムです(つまり常時受けていた赤外線が検知されなくて警報を発するのです)。これは以前から007などの映画にも出てくる簡単なシステムですが、欠点もあります。赤外線を遮るのは泥棒だけでなく、落ち葉や犬、猫でも遮ってしまい、警報を発してしまいます。現在では通過した物体の大きさなども考慮する積分回路も取入れて誤作動しないように工夫されています。

 

カウンター

よく工場で見かける装置に個数を数えるカウンターがあります。人間が数えるよりも速く、正確に個数を数えます。図1にその簡単な応用例と検出回路を示します。これはフォトインタラプタの応用の1種ですが、通過する物体が光を遮断する度にカウンター回路に信号を送り、カウンター回路は個数を数えていきます。

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図11-1 カウンター(コンベアライン)

 

距離計

距離を測る際は、オートフォーカスを使って正確な値を算出できます。これは人間の目の働きと同じ原理を使っています。人間の目は2個あります。この複眼によって我々は物体までの距離を、無意識に知覚しているのです。つまり両眼の距離を利用して物体までの距離を角度で把握し、この角度から瞬時に距離を推定しているのです。この原理を応用したのが図2です。図2にはイメージセンサを利用した距離計の原理が示されております。イメージセンサの中央にプリズムを配置し、左右対称にミラーが一定間隔に固定してあります。図では右側のミラーの角度は45度に固定し、左側のミラーは可動にしてあります。原理は次のようになります。物体までの距離を測定する場合、右側の45度のミラーに合わせてイメージセンサに像を結ばせると、左側のミラーは距離に合わせて角度を調整しなければなりません。例えば右側と同じように45度傾けた場合、図のように当然プリズムに光はあたらづ、従ってイメージセンサに像を結びません。左側のミラーを少しづつ動かしていって、イメージセンサ上でセンターから対称のところに像を結んだ時の左側のミラーの角度をθとすると、物体までの距離Lは、
L = d × tan(π-2θ)

ここでL=物体までの距離, d=イメージセンサの長さ, θ=左側ミラーの角度となります。イメージセンサはいくつかのフォトダイオード(受光素子)からなる光検出部であり、光が当たった素子のみが像を結びます。左右の像のバランスが取れればいいのです。物体が遠くになればなるほど、θの値は45度に近づきます。つまりtan(タンジェント)の値は限りなく大きくなっていき、距離は大となります。

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図11-2 距離計

/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。
 

第10回 情報スーパーハイウエイとインターネット

20世紀の商品は鉄鋼、自動車、テレビ等でした。これらは21世紀においても市場経済の重要な品目としてとどまるでしょうが、産業をリードする牽引車とはならないでしょう。時代は変わっていきます。孫会長がいうには、世界市場を引っ張るのは「情報」という商品および「情報を仲介するインターネット関連のサービス」という商品だそうです。自動車やテレビは、米国や日本だけでなく、何処でも、誰でも作れる普通の商品に成り下がり、ネジや釘と同じような商品になるということです(ここだけは筆者の独断)。 インターネット産業は歴史的に見れば、まだ緒に就いたばかりです。これからどんな展開をしていくか、予測は難しいでしょう。100年先ではなく、2010年にはどうなっているのでしょうか。そして勝ち組に入るであろう人達は、2001年の今、何を勉強しているのでしょうか。

 

情報スーパーハイウエイ

これは米国の当時のゴア副大統領が提唱した高性能、高品質の通信に必要な高速ネットワークのことです。1993年1月に発足したクリントン政権は、アメリカ経済の再生と国際競争力の強化を目的として(ライバルは日本)、「情報スーパーハイウエイ」構想を提唱しました。具体的には情報通信インフラストラクチャの整備です。「全米の家庭、会社、学校、研究所、病院、図書館などをドア・ツー・ドアで結ぶ高速の情報ネットワークを整備し、情報へのアクセスを容易にする」というもの。ゴア副大統領の提案は、医療、教育、研究開発、電子図書館などでのコンピュータ利用に重点をおいており、2015年を目途にギガビット/秒レベルの高速光ファイバ・ネットワークを構築することです。AT&Tやその他民間の通信事業者が既に行ってきた幹線ルートを更に充実させ、光ケーブルを利用して高速光ネットワークを完成させることです。ちなみに日本では1999年暮に堺屋経済企画庁長官がこれに類した提案をしました。

ゴア副大統領は1993年9月には「NII」(National Information Infrastructure,国家情報インフラストラクチャ)を発表しました。NIIは数百のネットワーク群から構成され、それぞれは各企業が運営しますが、国家的にはこのネットワーク群を更に上位の巨大なネットワークで結合して、電話や双方向デジタル映像等をまんべんなく米国民に提供しようとするものです。

 
又彼は「GII」(Global Information Infrastructure,地球規模の情報インフラストラクチャ)を提案しています。この内容は、「情報スーパーハイウエイ」で地球を覆い、地球を1つのコミュニティとして全世界の人々が情報を共有し、対話できるようにしようとするものです。これらは2015年といわず、もっと早く実現するでしょう。

彼は2001年の大統領選には敗北しましたが、米国の産業界には多大な貢献をした副大統領として歴史に残るでしょう。日本にもこういう人材が出てきて欲しいものです。
 

ネットのルーツ

21世紀は数十億人の人々がインターネットを利用するといわれています。インターネットのルーツは1970年代に米国の国防総省高等研究計画局(DARPA)が作ったARPANETです。その後1986年に全米科学財団(NSF)が研究用ネットワークとしてNSFnetを構築し、ARPANETもこれに接続されました。NSFnetにはいろいろなネットワークが接続されていますが、最初の56ビット/秒から、現在では45ビット/秒の専用線が幹線となっています。
 
一般にコンピュータは機種ごとに独自のプロトコル(規約)があり、従って機種が違えば、インターネットを使ってコンピュータとコンピュータが通信を行うことはできません。例えば米国のコンピュータと日本のコンピュータでは、一般的には接続ができません。この違いを調整して、ネットワーク上で相互接続できるようにしたのがTCP/IPというプロトコルです。このTCP/IPの採用により、NSFnetは急速に拡大し、多くのユーザが加入しました。「インターネット」とは、このNSFnetを利用してTCP/IPというプロトコルを標準に使うネットワークの総称です。そして政府出資というしがらみをとり、誰でも自由にアクセスできるようにしたので、爆発的な普及となりました。
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。