翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第3回 光ファイバ

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今回は光ファイバ(optical fiber)の解説をいたします。第1回目で、光の波動性(wave)と粒子性 (particle)について、2回目では光から電気に、又電気から光に変換(transform)することと、変調(modulation)と復調(demodulation)を学びました。
光ファイバの試作は日本が世界で最初に成功しました。光ファイバ石英(quartz)のガラスでできた繊維状の細い線です(細いのは百数十ミクロン)。光を伝搬する内側のコア(core)と呼ばれる部分と、光を外に逃げないように閉じ込める外側のクラッド(cladding)の部分からなり、両者の屈折率(refractive index)の違いにより光をファイバ内に閉じ込める(confine)のです。コアからクラッド側に出ようとした光は、屈折率の差により、境界面で全反射され目的地までほとんど減衰(attenuation)もなく伝搬されるのです。図3-1に光ファイバ、図3-2に光ファイバケーブルの例を示します。

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光ファイバの特長

(1)電磁誘導(electromagnetic induction)の影響がない
光ファイバの最大の特長です。雷や高電圧によって生じる電磁気的な干渉が全くありません。又、通信設備機器の高周波発振器などによる高周波雑音、変電所などで発生する電磁パルスの影響をうけません。従って高圧線に併設も可能です。

(2)データの漏洩(leakage)がない
光ファイバはコアを通る情報が外へ漏れるという心配がありません。又、外部からの混信もありません。つまり秘密が守られます。

(3)大容量(large capacity)のデータの伝送が可能
光ファイバ最大の特長の一つにその広帯域性があります。図3-1のシングルモード・ファイバでは数十GHz以上の広帯域通信が可能です(周波数分割多重)。

(4)送信側(transmitter)と受信側(receiver)を電気的に絶縁(insulate)
光ファイバ石英ガラスを材料としているので、いわゆる電気絶縁材料です。短絡の心配はありません。又、各機器間の接地電位差も関係ありません。従ってケーブル等の電磁シールドに悩まされることもありません。

(5)細径、軽量
光ファイバが細径であることから大きな利点が生まれます。同軸(coaxical)ケーブルは10芯で10mm程度の太さがありますが、ファイバを使えば百本以上の多芯化(multi-core)が可能です。つまり空間分割多重といえます。軽量なので飛行機、自動車等への利用が大いに考えられます。

 

/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊

 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。
 

第2回 光通信システムの構成

光通信の基本的な要素を図2-1に示します。信号は、先ず変調され(modulate)、次に電気から光にと変換(transform)され、伝送路(transmission line)を通って、今度は逆に光から電気へと変換され、復調(demodulate)され、最後に信号出力として取り出されます。変調とは、簡単にいうと搬送波(carrier wave :信号を運搬するための電波)に信号を載せてやることです。復調とは、逆に搬送波を除いて信号のみを取り出すことです。喩えていえば、新幹線(搬送波)と乗客(信号)の関係と似ています。変調、復調とは乗客の乗せ方、降し方といったところでしょう。それぞれのセクションの役割についてもう少し詳しく説明しましょう。

 

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図2-1 光通信の基本的要素

 
伝送路
一般に通信伝送路には無線と有線があります。無線には、簡単な例でいえば、テレビとリモコンの間の空間があり、又一般的には、遠隔地の通信用には大気圏があります。有線には従来の銅ケーブルと、最近注目の大容量伝送の光ファイバケーブルがあります。ここでは光ファイバケーブルのことについて少し説明をしましょう。略して光ファイバともいいますが、構造等については次月号で詳しく述べます。これは石英ガラスの細い線からできており、光信号を通す内側のコア部分と光を反射する外側のクラッド部分からできています。コア部分とクラッド部分では屈折率が異なり、低い屈折率のクラッド部分が光信号をコア内に閉じ込める役割をしています。要するに、屈折率の差によってコアから出ようとした信号はクラッドとの境界面で全反射され、損失がほとんどなく遠くに伝わるのです。
 
電気/光変換、光/電気変換
電気信号を光信号に変換する素子と、光信号を電気信号に変換する素子の両方が必要です。前者はLED(Light Emitting Device:発光素子)等を使い、後者はこの逆でPD(Photo Diode:受光素子)等を利用します。LEDは電気によって発光し、PDは光を検知して電気を発生する素子です。光の特長として電磁誘導(electromagnetic induction)を受けない、従って雷とか高圧線の影響を受けないし、又外への干渉、妨害もないという、すばらしい利点があります。一方でマイクやスピーカは、電気の磁気的性質を利用していますから、光ではなく電気を使わざるをえません。光通信といっても伝送路が光ファイバであり、信号の入口と出口は将来的にも電気を利用した機器でしょう。しかしこの伝送路が光ファイバになったことで、通信技術は飛躍的に進歩し、送れる情報量も桁違いに多くなったのです。
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています.。
 

第1回 光の粒子性と波動性

光は波か、粒子か?

光は波waveか、それとも粒子particleか?という論争は遠くギリシャの時代からあったらしいのです。光は直進するということ、物体に当たると入射した角度と同じ角度で反射されるということや、光が水面の波のようにうしろ側にまわりこむ「回折diffraction」や、「干渉interference」なども波動性として分かっていたようです。

物理の教科書を読むと必ず出てくるのがこの粒子説と波動説の論争です。この論争はニュートン粒子説の時代にも引き継がれ、彼はフック波動説と対立しました。20世紀初頭、天才アインシュタインの出現により、光子説を導入した量子論が彼およびその他の研究者達によって唱えられ現在に至っています。解決したかに見えるこの論争は、結論としては、何と、光は粒子でもあるし波でもあるというものです。要するに波でないとうまく説明できない現象、粒子でないと説明できない現象は依然としてそのままなのです。

 
光と電波
光は電波と同様に電磁波(electromagnetic wave)の一種です。読者が知っておられるX線ガンマ線、赤外線、紫外線や可視光線も全てこの電磁波です。電波とは日本においては、波長が約0.1mm以上の電磁波のことです。光は波長が更に短く約1nm(10-9 m)~1mmであり、光通信はこの光の波としての性質を利用しています。光の性質について少し触れておきましょう。
光は横波(transverse wave)であり(cf.音波は縦波:longitudinal wave)その進行方向に対して直角な電界と磁界の振動(波動)を持っています。図1-1にそのイメージを示します。
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図1-1 電磁波(光)の性質
 
山と谷が交互にきていますが、波長とは一つの山と一つの谷の進行方向の長さをたした値です。1秒間にこの山谷が何回現れるかが周波数(振動数)です。従って、波長×周波数=1秒間に光が伝わる距離です。このことは基本中の基本ですので是非理解して下さい。普通、光はいろいろな周波数をもった電磁波の集合ですが、光通信に使う光はある一定の周波数であり、レーザ(laser, light amplification by stimulated emission of radiation)によって発光されます。
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています.。