翻訳に役立つ科学講座

1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています

第6回 発光素子

光通信の主役級は3人と考えていいでしょう。光ファイバ(optical fiber)、発光素子(LED:light emitting diodeなど)、および受光素子(PD: photo diodeなど)です。光ファイバは第3回目の解説で説明しました。今月は発光素子、来月号で受光素子の話をします。発光素子は電気信号を受けて光を発生し、受光素子は光信号を受けて電気を発生するものです。

物質は外部から何らかの刺激(excitation)受けると、エネルギを放出して元の状態に戻ろうとする性質があります。例としては、あまり適当ではないですが、人間でも同じです。暑くなれば、涼しい場所に行きたくなるし、寒くなれば(マイナスのエネルギをもらえば)、暖かい場所に行きたくなると同じです。元の状態に戻ろうとするのです。元の状態が最も安定した状態なのです。物質がエネルギをもらって励起すると、元の状態に戻ろうとするのに、2通りの方法があります。1つは、熱としてエネルギを放出(relaxation)する過程であり、他の1つは光としてエネルギを放出する(emission)過程です。少し難しくなりますが、前者は格子振動(lattice vibration)を利用し、後者は電子のエネルギ準位のあるレベルから、あるレベルへの遷移(transition)で行われます。つまり光が発生するのは、電気信号を受けて(エネルギをもらい)、ある半導体の電子のエネルギ レベルが高くなり、また元のエネルギ状態に戻る時に光を放出するのです。この原理を応用したのが、発光素子です。
 
なぜ光が発生するのか
半導体といっても、光を放出しやすい物質とそうでないものとがあります。いままでトランジスタなどエレクトロニクスの主役を演じてきたゲルマニウム、シリコンは発光に関してはダメな材料です。代わって、ガリウムヒ素(GaAs)、ガリウムリン(GaP)、インジウムリン(InP)などが主役として登場です。

図6-1で説明します。pn接合のダイオード(第5回参照)に順バイアス(forward bias)をかけると(エネルギをかけると)、pとnの各領域に少数キャリア、つまり、pには電子が、nには正孔が流れこみます。これら少数キャリア(minority carriers)は接合部付近で再結合して消滅します。この結合する時に光を出して消滅するのです。放出する光の波長は、禁止帯のバンドギャップの幅Eg(価電子帯と導電帯のエネルギギャップのこと<>)によって決まります。Egが大きいほど、波長が短くなります。色でいうと、青色の光です。Egが小さいと(ガリウムヒ素)波長の長い赤外線を発光します。その他、発光させる色によってさまざまな発光材料が使われます。

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例えば電気機器で、電源表示用ランプなどは、従来フィラメントを使った豆電球を利用していましたが、発光ダイオードを使ったランプは低電圧(1~4V)で消費電力が低く、応答速度も高速で、寿命も長持ちします。光通信に利用する光は赤外線の範囲の部分を利用しています。

/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。
 

第5回 ダイオードとpn接合

p型半導体はシリコンにホウ素(boron)等を添加したものです。この半導体には正の電荷を持つ正孔(hole)が多く(rich)あります。ホウ素のように正孔を作り出す添加物をアクセプタ(acceptor)と呼びます。一方、n型半導体はリン(phosphorus)等をシリコンに添加したもので、負の電荷を持った電子が多くあります。このリンのような役目を持った物質をドナー(donor)といいます。

pn接合とはこのp型半導体とn型半導体を物理的に接合したものをいいます。半導体素子とは、このpn接合をいろいろ組み合わせて、電子的な性能を作り出しているものともいえます。

図で説明すると図5-1になります。(a)はp型半導体とn型半導体を接合したところです。(b)では接合面の近傍でプラスの正孔とマイナスの電子が互いに拡散していき、電気的に中和されるところを示しています。(c)では中和された部分が空乏層(depletion layer)となって電気的な障壁(barrier)が形成されることを示しています。

ダイオードとはこのpn接合(pn junction)を利用した素子のことをいいます。図からわかるようにpn接合の両端にリード線をつければダイオードです。図5-2(a)のようにp型に電池のプラス、n型に電池のマイナスを接続すると(順方向バイアス)、p型の正孔は電池のプラス極に反発してマイナス側に移動し、逆に電子(マイナス)は電池のマイナス極に反発してプラス側に移動します。プラスとマイナスの電荷が行き交う、すなわち電気が流れたことになります。逆に(b)のようにプラスとマイナスを入れ替えると(逆方向バイアス)、正孔とマイナス極、電子とプラス極は引き合い空乏層は更に大きくなります。すなわち電気は流れません。このようなダイオードの作用を整流(rectification)といいます。又これら伝導電子と正孔を合わせてキャリア(carrier)といいます。

 

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/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。
 

第4回 半導体

半導体の「ダイオード」や「トランジスタ」などの基本素子について、避けて通うろうとする方がいますが、感心しません。技術翻訳には、コンピュータ翻訳であれ、通信マルチメディア関連、特許やその他の産業の翻訳であれ、半導体は必ず出てきます。翻訳家としては、少なくとも基本的な動作を理解する必要があります。今回は、これをイメージ的にわかりやすく説明しましょう。

金属には動ける電子が多くあり、絶縁体にはほとんどなく、半導体には少しあるということです。この少しあるというのがミソで、不純物(impurity)を添加(dope)してこの量を加減することで電気を通したり、止めたりするメカニズムを作ります。不純物とはホウ素(boron)とかリン(phosphorus)などです。

図で説明すると、絶縁体は価電子帯(充満帯,full bandともいう)と伝導帯のエネルギ・ギャップが大きいので、電気や光などのエネルギが加えられても、電子は禁止帯を超えて伝導帯には移動できません。動く電子がないので、すなわち絶縁体です。良導体の金属には、禁止帯がありません。電子はエネルギをもらえば容易に動くことができます。すなわち電気が流れるのです。半導体にはいろいろな分類の仕方がありますが、一般的には3つのタイプに分けます。真性(intrinsic)半導体、p型(p-type)半導体、n型(n-type)半導体です。真性半導体は例えばシリコン(silicon)単体そのものであり、p型半導体はホウ素等の不純物を加えたもの、n型半導体はリン等を加えたものです。
 
電子の持つエネルギについて
物質を構成する原子は陽子(proton)、中性子(neutron)を中心にして、電子(electron)が外側に配置された構造をしています。陽子や電子の構成のあり方で、シリコンになったり、酸素になったりします。原子の性質は、主に一番外側の電子のエネルギ状態によってきまります。これらエネルギの高低の幅を、エネルギ帯(energy band)といいます。物質は電気の良導体の金属、半導体、絶縁体の3タイプに大別されます。エネルギ帯で表現すると図4-1の様になります。

伝導帯(conduction band)
電子が自由に移動できるエネルギ準位(energy level)の高い状態です

価電子帯(valence band)
原子内に電子が束縛されているエネルギ準位の低い状態です

禁止帯(forbidden band)
電子がこのエネルギ レベル(エネルギ準位)を持てないということです
 
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図4-1 物質のエネルギバンド構造
 
/エイブス技術翻訳スクール 校長・疋田正俊)
 
この原稿は、1999年~2000年「通訳翻訳ジャーナル」(イカロス出版)に連載していたものを元に再構成しています。